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アトピー治療最前線 NHK取材班 岩波書店

「これを食べるとアトピーになる」という恐怖や
不安感が皮膚の症状を引き起こしていた

 世界の医療機関ではどのようにアトピー性皮膚炎にアプローチをしているのか、特にアトピー性皮膚炎の子どもを持つ人に知ってほしいと、私はこの本を読んで思いました。

 「アトピー性皮膚炎」という病名が生まれたのは1933年。ニューヨーク大学医学部付属病院 皮膚科病棟に、マリオン・サルツバーガー博士が勤務していました。サルツバーガー博士が、ぜんそく持ちで、わきの下や首の後ろ、胸など特定の場所に現れるなどといった特徴がある皮膚炎を「アトピー性皮膚炎」と名付けたそうです。

 同じくサルツバーガー博士が、1952年にアトピー性皮膚炎に対して初めてステロイド剤を使用したとのこと。ですから、アトピー性皮膚炎にステロイドを使い始めたのは65年前ということになります。

 アメリカの症例ですが、アトピー性皮膚炎に対して食物アレルギーの面からアプローチした45歳の女性が紹介されていました。この女性は食べることに恐怖や不安感を抱くようになり、自分で大丈夫と判断した10品目しか口にしてこなかったそうです。恐怖や不安感からのストレス、栄養面の偏りで、皮膚の症状が改善しなかったことが指摘されていました。

 ここで私が思ったのは、今の日本でのことです。アトピー性皮膚炎に対して、小児科医には除去食を強く勧めるケースが多く見受けられました。アトピー性皮膚炎のみならず、「○○は子どもの知能を低下させる」「△△は毒だ」と言う人がいますね(○○も△△も昔から食べられている、一般的な食品です)。
 その結果、アトピー性皮膚炎で極端な除去食を子どもに与えている親がいるように思うのです。かなりやせているアトピー性皮膚炎の子どもを、私は見てきました。

 アトピー性皮膚炎には、さまざまな「原因」と治療法があります。「原因」とかっこづけにしたのは、確定したわけでなく、あくまでも説に過ぎないからです。

 アメリカの症例の女性は、心理的な要素を取り除く「フードチャレンジ」という検査法を受けていました。
 例えば、「私は子どもの頃から卵アレルギーだから、卵は食べられない」と思い込んでいる人がいるとしましょう。その人は、卵を見ただけである種の恐怖感と拒否感を抱くわけです。ですから、フードチャレンジではまったく卵の影も形もない食品を作って、卵アレルギーと思い込んでいる人に与えます。そしてアレルギー反応が起こっているかどうかを検査するわけです。
 この女性は結果として、アレルギー反応を起こす食品は本人が考えていたよりもはるかに少なかったのです。

 「○○はアトピーを引き起こす」「△△は毒だ」という思い込みが、皮膚に多大な影響を与えているわけです。

 この女性に、栄養士は次のように語っていました。。
 「あなたのこれまでのカルテを見ると、何回もアレルギーテストを受けていますね。テストを受けすぎて、自分でも混乱しているのではないですか。そんな時、医師から食物を避けるようにと言われたら、こわくて避けるものがどんどん増えていって、最後には極端に制限された食事になることは、よくあるケースです。」

0か100かという態度では
治らないケースがほとんど

 厳しい食事制限については、日本でも子どもの発育・成長を妨げると医師が問題を指摘しています。

 ここからは私の考えなのですが、「では、食事については考慮しなくてもいいわけですね」という結論にはなりません。
 食事療法を含めた健康法に対して、0か100かという態度を取る人がけっこういます。やるなら徹底的にやる。やらないならまったくやらない。しかも、やり始めるとストイックを通り越して盲目的な印象もあります。

 しかし、多くの不調が、0か100かという態度では治らないケースがほとんど。特にかゆみ・カサカサといった皮膚の症状については、スキンケアやストレスが複合的に関係しているので、「ダニの駆除だけバッチリやっていれば治る」「食事制限さえしていれば十分」というわけにはいかないようです。

 『アトピー治療最前線』では、今山修平医師の「足して10で発病」の理論が紹介されていました。アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下といった患者自身の異常、そしてダニや花粉などの外界からの関与が積み重なることで発症するという考え方のようです。

■皮膚の機能異常(患者自身の異常)
皮膚のバリア機能低下
汗の中の免疫グロブリンの分泌低下
皮膚表面の細菌叢の異常
表皮内のマスト細胞
表皮内の神経の増加
そのほか

■アレルギー(外界からの関与)
環境抗原(ダニ、花粉など)
食物抗原(特に乳幼児で)
接触抗原(細菌、金属など)
そのほか


 上記のような原因を足していって10になれば、アトピー性皮膚炎が起こるということです。
 例えば、皮膚のバリア機能低下3点+皮膚表面の細菌叢の異常3点+表皮内の神経の増加2点+環境抗原2点=10点→発症となります。
 原因に対応する点数には、個人差が大きいでしょう。同じ10点で発症した患者さんでも、皮膚のバリア機能低下の点数が高い人もいれば、表皮内のマスト細胞の点数が高い人もいるわけです。
 ○○という療法だけでアトピー性皮膚炎が治るわけではありません。
 また、ある人が○○という療法だけで治ったとしても、原因に対応する点数は人それぞれなので、別の人にも有効とは限らないのです。

 しかし、『アトピー治療最前線』で紹介されていたドイツでの試みは、多くの患者さんに効果を発揮するのではないかと私は考えました。
 アトピー性皮膚炎が患者さん本人だけでなく、その周囲の人も含めた心の問題と深くかかわっていると、ドイツでは認識されているようです。1歳の赤ちゃんがアトピー性皮膚炎の場合は、母親の精神的な状態も考慮されているということです。
 日本の皮膚科でよく聞かれる「かくと悪化するんだから、お母さんがちゃんと管理してあげなきゃダメじゃない」といった、母親の精神的負担を重くする発言はドイツではなさそうです。

 この本で紹介されていたのは、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんを持つ母親へのカウンセリングでした。30分以上にわたってカウンセリングが行われ、カウンセラーが語りかけるというよりも丁寧に母親の話を聞いていたのだそうです。
 私が思ったのは、「日本にも母親の話に耳を傾けるカウンセラーが皮膚科にいたら、子どものアトピー性皮膚炎は軽快するのではないか」「完全とはいかなくても、日常生活では不都合のない程度まで治るのではないか」ということです。

 『アトピー治療最前線』に掲載されていたドイツの大学教授の言葉を抜粋します。
 「重いアトピー性皮膚炎の子どもの母親は、しばしば義務感が強すぎ、几帳面すぎて、子どもの世話もかなり厳しいということがわかりました。
 ここで注意すべきなのは、責任を母親に押し付けてはいけないということです。母親は子どもをとても愛しているのですから。ただ、あまりにもすべてをきちんとやろうとするのは問題です。」
 皮膚をかきむしる子どものアトピー性皮膚炎のケアで夜も眠れず、苦しみ、不安を抱いて、ストイックにダニ退治や食事制限を行っている親たちに、医師をはじめ周囲の人間がさらなる責任を押し付けてはいけない。修正すべきなのは、そのストイックさだと教授は語っています。

 最後に、前記とは別の大学教授の言葉を紹介します。
 「私たちは、まず親に対し、子どもがなぜ病気なのかを説明します。どの子もアトピー性皮膚炎にかかるわけではない。その体質は、遺伝的なものです。しかし、発病をうながすような外部の環境もあります。そして、この外部要因に影響を及ぼすことによってのみ、子どもは健康になれます。病気が治るわけではありませんが、健康になれるのです。」

1997年に出版されましたが、内容は今もまったく古びていません